眼科

当科で扱う主な疾患と症状

  • 白内障 
  • 緑内障 
  • 網膜硝子体疾患
  • 前眼部疾患
  • 小児眼科/斜視
  • 弱視

そこひ(底翳)

当院の眼科には「目が痛い」「目が赤い」「目が見えにくい」「めやにが出る」「モノが二重に見える」「目の向きがおかしい」「目の前に黒い虫のようなモノが見える」「目に違和感がある」など、さまざまな訴えを持って患者さまが来られます。とくに「目が見えにくい」という訴えに関しては、ヒトは5感の中でも視覚から情報の8割を得ているといわれ、視力や視野の障害が生活の質を著しく下げてしまうことが知られています。
目が見えなくなってしまうことについて、しばしば「目が潰れる」という言葉を口にされる人が多いと思いますが、これは眼の外傷や重症の感染で目が見えなくなった最終段階に眼球が萎んでしまった状態、「眼球ろう」という状況を示します。眼球が普通の形でも見えていない状態は、目の底に何か異常があって見えなくなってしまった状況と考えられ、従来そのことを「そこひ(底翳)」と呼んでいました。現在の言葉では「◯内障」と呼ばれ、「◯」の中に「白」「緑」「黒」の字が入れられる疾患が日常の眼科診療の対象としてはポピュラーです。

白内障(白ぞこひ)

白内障とは?

眼球は昭和の頃のカメラに例えるとその構造がわかりやすく、角膜と強膜が外箱、網膜がフィルムで、水晶体はレンズです。カメラではレンズを前後に動かしてピントを合わせますが、眼球では筋肉で水晶体の厚さを変えてピントを調節します。加齢や外傷、眼の中の炎症によって水晶体が濁ってしまった状態が白内障です。
重症の場合は肉眼でも瞳が白くなっていることがわかります。白内障の症状としては、視力の低下、目のかすみ、光がまぶしいといったものが挙げられます。

白内障の治療

白内障の多くは加齢に伴うもので、急いで手術をしないと手遅れになるということはありませんが、その症状が強くなってきて日常生活に支障をきたすような場合は手術が必要です。
手術は、超音波を用いて濁った水晶体を破砕、吸引することで透明な膜を残した形で取り除いてから、眼内レンズを入れて水晶体のレンズの機能を補います。超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術(水晶体再建術)と呼ばれる手術です。
当院では片眼なら1泊の入院で、両眼の手術であれば片眼ずつ2週間を開けてそれぞれ1泊の入院でこの手術を行います。通常は局所麻酔で行いますが、小児の場合など、麻酔科に依頼して全身麻酔で行うこともできます。また、入院に際して、糖尿病や腎臓疾患の管理を専門の内科に依頼するなど、他科との連携をとって安全な手術を心がけています。

緑内障(青ぞこひ)

眼圧と神経線維

眼球の中には毛様体という、水(房水)を産生する器官があって、この房水は眼球内の圧(眼圧)を一定に保ちながら線維柱帯という篩を通って眼球の外に出てゆきます。この房水の流入と流出のバランスが悪く、眼圧が高くなってしまうと、眼球の中の血流が悪くなって網膜にめぐらされた神経の線維を傷めてしまいます。自然災害などで電線が傷んで停電が起きた状況を想像してみてください。電線は断裂してしまっても復旧工事がうまくゆけば元の生活が取り戻せますが、神経線維が傷んでしまうと元の状態には戻りません。

緑内障とは?

神経線維が傷んでしまうとその線維が伝えるはずの情報が欠けてしまいます。つまり、その範囲の視野がなくなってしまいます。緑内障はこうしたメカニズムによって視神経と視野に特徴的な変化をきたしてくる疾患で、知らず知らずのうちに視野が欠けてきて末期になると視力が失われます。眼圧を下げてその進行を抑制するしか治療法はなく、失われた視機能は戻ってきません。実はわが国の国民の失明あるいは視覚障害をきたす原因疾患の第1位は緑内障で、岐阜県多治見市で行われた大規模調査で、40歳以上の日本人の5%が緑内障に罹患しているという驚くべき事実がわかりました。したがって、緑内障で失明しないためには、定期的な眼圧チェック、眼底検診を受けて、これを早い段階で見つけて治療を開始することが何よりも重要です。

緑内障の治療

緑内障の治療は大きく分けて3つです。ひとつは点眼治療です。これは毎日、決まった時間に根気よく点眼を続けることが重要です。緑内障も早い段階では自覚症状がないため、モチベーションが落ちてしまって途中でやめてしまう人もいますが、「目が見えにくくなった」「視野が欠けてきた」といった症状が現れてきた時にはかなり進行した状態なので、眼科で定期的に眼圧チェックを受けながら点眼治療を続ける必要があります。もうひとつは、レーザー治療です。緑内障のタイプによってはこの治療を行っています。さらに、手術での治療があります。

緑内障の緑、青ぞこひの青

元々青ぞこひとは、なんの前ぶれもなく急激に眼圧が上がって、眼の痛みや頭痛、吐気、嘔吐などを起こす状態を言いました。急に眼圧が上がってしまうことによって角膜に房水が入ってくると、透明なはずの角膜がむくんで白っぽくなります。白っぽい角膜を通して虹彩の色を見るため、クロメがどんより緑がかった青に見えます。この場合はシロメも充血しますので、その赤とのコントラストでさらに緑色に見えてきます(左図)。これは緑内障でも閉塞隅角緑内障というタイプに起きる発作で、数日この状況が続くと見えなくなってしまいますので、手術が必要となります(右図)。

糖尿病網膜症

糖尿病網膜症とは?

糖尿病の3大合併症として、①神経障害、②網膜症、③腎症があります。糖尿病網膜症は日本人の失明原因としては緑内障に次ぐ第2位、あるいは網膜色素変性症が間に入っての第3位にランクされ、年間約4,000人の方がこの合併症で光を失っています。糖尿病歴も10年を超えると、あるいはコントロール不良の糖尿病患者さまでは、網膜の隅々に栄養を送る毛細血管の流れが悪くなったり血管が詰まってしまって網膜が傷んできます。眼底検査では網膜に出血や白斑が見られますが、これらは網膜への血の流れが障害されて、酸素不足になっていることを示しています。さらに進行すると、余分な血管が現れ、眼球内部に出血が起きたり、網膜剥離を起こしたりして目が見えなくなってしまいます。このような状態を糖尿病網膜症でも増殖網膜症と言って、手術が必要な状態です。

糖尿病網膜症の治療

糖尿病網膜症の治療としては、網膜の出血や白斑があっても軽度のうちは内科での治療で病勢のコントロールをつける、網膜の血管が広範囲に詰まってしまった状態であればレーザー治療、増殖糖尿病網膜症に至った場合は手術が行われます。

加齢黄斑変性症

眼球をカメラで例えれば、フィルムに当たるのが網膜です。網膜には光を感じることのできる視細胞と、視細胞でえた情報を脳に伝える神経線維があります。網膜の中心部には「黄斑部」といって、色を見分けて、光の情報を最も敏感に感じることのできる大切な場所があります。

加齢黄斑変性症とは?

加齢黄斑変性症は、老化に伴ってこの黄斑部に出血やむくみをきたして視力が低下する病気です。変視症といって、物がゆがんで見えるという症状や、視野の中心部が見えにくいといった症状から始まって、放置すると見えなくなってしまいます。わが国での失明原因疾患の第4位がこの加齢黄斑変性症です。

加齢黄斑変性症の治療

加齢黄斑変性症の治療として、眼内注射(抗VEGF抗体という薬を注射します)、レーザー治療、硝子体手術が行われます。当院では点眼麻酔で抗VEGF抗体を眼球内に注射する治療を行っています。レーザー治療や硝子体手術が必要な場合は専門の施設に紹介しています。

黒内障(黒ぞこひ)

黒内障というのは聞きなれない言葉だと思います。これは見た目には健康そうな黒い瞳なのに目が見えていないことを表した状態を言います。古い言葉で、現在はほとんど使われていませんが、主には視神経や中枢の疾患、あるいは先に述べた糖尿病網膜症や加齢黄斑変性など網膜の血管の異常もこの中に入れられます。

前眼部疾患(クロメとシロメの病気)

当院眼科の特長は、角膜(クロメ)・結膜(シロメ)といった前眼部の疾患を専門に診ていることです。角膜、結膜、涙液層、そしてまぶたについては、多くの疾患が一括して治療に当たるのが望ましく、現在はこれらを統合して「眼表面」と呼んでいます。代表的な眼表面疾患として、ドライアイとアレルギー性結膜疾患、コンタクトレンズ角膜障害があります。

ドライアイ

ドライアイは2016年にドライアイ研究会により「様々な要因により涙液層の安定性が低下する疾患であり、眼不快感や視機能異常を生じ、眼表面の障害を伴うことがある」と定義されました。角膜、結膜の上には涙の層が覆い、常に湿潤である必要がありますが、この涙液層が不安定で破れやすい(break upをきたしやすいとも言います)状態だと、目が疲れやすい、乾いた感じ、目が痛い、光がまぶしい、ぼやけて見えるなど様々な症状をきたし、「生活の質」を下げてしまいます。
わが国では2010年から涙液層の安定化に有効な2種類の点眼薬が相次いで発売になりました。もちろん、これらの治療手段も正しい診断のもとに用いられなければドライアイによる眼の不快感を改善させることはできません。
当院では涙液層の破れるパターンからドライアイをタイプ別に診断し、症状の改善につながる治療を心がけています。

アレルギー性結膜疾患

現在、国民の約半数が何らかのアレルギーで苦しんでいると言われます。近年の調査では、アレルギー性結膜疾患の有病率は48.7%と言われ、わが国の国民病と言っても過言ではないでしょう。本疾患は「アレルギー反応を主体とした結膜の炎症性疾患であり、抗原により惹起される自覚症状・他覚症状を伴うもの」と定義されます。季節性アレルギー性結膜炎、通年性アレルギー性結膜炎、アトピー性角結膜炎、春季カタル、巨大乳頭結膜炎を総称してアレルギー性結膜疾患と呼んでいます。
治療は、それぞれの病態によって異なりますが、主には点眼治療が行われます。現在は抗アレルギー剤、副腎皮質ステロイド剤、免疫抑制剤の点眼薬が主要な治療手段となりますが、例えばスギ花粉症が原因で起きてくる季節性アレルギー性結膜炎では、スギ花粉の飛散が始まる前の1月中から抗アレルギー剤の点眼を開始すると花粉のシーズンを比較的楽に過ごすことができます。こういう治療を「初期治療」と呼びますが、他の治療手段も、適切な用い方によって症状をより軽くさせることができます。
当科はアレルギー性結膜疾患治療の専門診療科としての看板を掲げ、本疾患の診断と治療に力を入れています。また、呼吸器内科、小児科、皮膚科、耳鼻咽喉科とも連携をとりながらアレルギー疾患の診療に当たっております。

コンタクトレンズの角膜障害

当院では角膜疾患を専門に診る外来を設けているため、コンタクトレンズによる角膜障害の患者さまを診ることが多いです。コンタクトレンズに関連した眼表面の障害としては、レンズの固着や酸素不足によって角膜の表層の細胞層に傷がついてしまったり、アレルゲンの濃縮によってアレルギー性結膜疾患が重症化してしまうことが知られています。また、コンタクトレンズの消毒や保存容器の洗浄などの管理を怠ったり、装用したまま眠ってしまったりすると、レンズによる角膜のキズから細菌やカビ、アメーバなど、感染源となる微生物が入ってきて重症の角膜潰瘍を起こしてきます。
原因となっている微生物をつきとめて、それに対応した点眼治療を行うのが有効な治療法ですが、治療の開始が遅れると炎症が収まっても重篤な視機能障害を残すことになります。
実は、コンタクトレンズは高度管理医療機器です。眼科医の指導のもとに、適切な管理で使用してもらうことが重要です。そして、コンタクトレンズの使用で眼が「痛い」「赤い」「見えない」を自覚されたら早めに眼科を受診することをお勧めします。

角膜移植

角膜はクロメでも最も前の方に位置する厚さ0.5〜1.0ミリメートルの透明な膜で、ドーム型のきれいな球面を形成しています。その透明性ゆえに光を眼の中に入れ、その球面により強い凸レンズとして網膜まで光を集める機能を持っています。ところが、角膜が濁ってしまったり、変形した状態だと物を見ることができなくなってしまいます。こうしたことが原因で視力低下をきたしている眼に対して、角膜移植が行われます。また、角膜潰瘍や外傷で角膜に孔が開いてしまった場合などではそのままにしておくと眼球ろうに至ります。こうした、疾患の進行を抑える目的でも角膜移植は行われます。
当院では、2022年から愛知県アイバンクのご協力をいただいて、ご提供をいただいた角膜を移植して、開眼に繋げる手術を行っています。また、難治性の眼表面疾患の患者さまに対しては、自己培養角膜上皮移植、自己培養口腔粘膜移植など再生医学の適用、あるいは羊膜移植による再建治療を行っています。
再生医学の適用は緒についたばかりですので、現在なお多くの角膜移植は提供角膜を用いて行われます。全ては無償でご提供をいただいている角膜なので、その善意のお気持ちを患者さまの開眼に向けて橋渡しできることが角膜移植を担当する者の願いです。

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