トヨタアスリートサポートセンター(TASC)

診療スケジュール・担当医

2025年1月

午前 午後
月曜日 高橋
火曜日 高橋
水曜日 高橋
木曜日 高橋
金曜日 酒井(第2・4)
明田(第1・3)

変更になる場合がありますので、ご了承ください。

情報発信

コラム
スポーツ活動での熱中症を防ぐ

体温上昇を抑える

スポーツ中の熱の移動

運動での熱中症を予防するためには、体への熱の出入りを理解することが大切です。気温と湿度が高い環境で運動をする場合、皮膚と外気温との温度差が小さく、汗が蒸発しにくいため、熱が体の外に放散されにくくなります。一方で、筋肉を動かすと大量の熱ができるので体温がどんどん上がります。また高い外気温や太陽や地面からの輻射熱も体温を上昇させます。

予防策1. 体調確認

睡眠不足、風邪、下痢などがある状態で運動を行うことは、熱中症が発生する危険性を高めます。スポーツ選手に発生した熱中症による死亡事故を分析した報告によると、体調不良、睡眠不足、過体重、長期の休暇による体力の低下、体力水準に見合わない身体的努力が事故の原因であったと分析されています(※1)。体調不良がある時は無理な運動は控えるようにしましょう。

予防策2. 暑さ指数による運動強度・量、休憩時間の調節

WBGT(いわゆる暑さ指数)の値を用いて、運動の強さや時間および休憩時間を調整することです。WBGTは気温に加えて、湿度や太陽からの輻射熱も考慮された温度です。WBGTが28℃を越えると熱中症の発生件数が急激に増加すること(※2)、WBGTの値による運動強度、量、休息時間の調整等をルール化することで熱中症の発生率を低下させられたことが報告されています(※3)。日本スポーツ協会からは「熱中症予防運動指針」(※2)が示されており、WBGTを用いて運動を調整する際の参考にできます。

予防策3. 暑さに慣れる(暑熱順化)

暑い環境に体を慣らしていくことを暑熱順化と呼びます。暑熱順化の効果として、深部体温の低下、心拍数の減少、発汗率の増大および暑熱環境でのパフォーマンスの向上が報告されています(※4)。暑熱順化を行う際はジョギングなどの軽い運動を、暑熱環境で1日に合計60分程度行います。そのような運動を1~2週間程度続けると暑熱順化が起こるとされます(※4)。暑熱順化のトレーニングを行う際には水分補給や休憩時間の確保など熱中症を起こさない取組が必要です。

予防策4. 水分補給

人の体は体重の60%程度が水分で構成されています。体がしっかりと機能するためには、体水分量を正常な状態に維持することが大切です。体水分量が少なすぎて(脱水状態)ても多すぎても体の機能が低下しますが、運動では汗をかくため脱水状態が発生しやすくなります。過剰な脱水を防ぐ目安として、運動前後に体重を計測し、体重減少が2%以内に収まるよう、水分補給を計画することが推奨されています(※2)。運動中は、電解質と糖質を含んだスポーツドリンクを摂ることが体水分量の維持に役立ちます。

予防策5. 冷却

ヒトは運動中、深部体温が約40℃に到達すると疲労困憊で運動を続けられなくなります。そのため、急激な体温上昇を抑える冷却は熱中症の対策のみならず、暑熱環境でのパフォーマンスの向上に役立ちます。冷却方法には、アイスバス、アイスタオル、クーリングベスト、扇風機などの皮膚を介した冷却とアイススラリーや冷たい飲料などの体内からの冷却に分類されます(※5)。

  1. ※1Grundestein et al. Int J Biometeorol (2017) 61: 1471-1480.
  2. ※2日本スポーツ協会. スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック. 第5版. 2023.
  3. ※3Cooper ER et al. J Athl Train. 2020; 55(7): 673-681.
  4. ※4Tyler CJ et al. Sports Med. 2016; 46(11): 1699-1724.
  5. ※5Adams WM et al. J Sport Rehabil. 2016; 25(4): 382-394.

熱中症の応急手当

熱中症は、「熱失神」「熱けいれん」「熱疲労」「熱射病」の4つの病型に分類されます(※1)。特に熱射病は生命に関わる重大な傷病です。なおスポーツ活動や肉体労働によって発生する熱中症を労作性熱中症と呼ばれることがあります(※2)。

【熱中症の病型と原因・応急処置】
病型 原因&応急処置
熱失神 熱失神は、炎天下にじっと立っていた場合や運動後におこりやすい傷病です。暑熱環境では汗をかく必要があるため、皮膚の血流が増加します。また立った状態を続けたことにより血液が下肢に集まります。脳などの臓器に送られる血流が減少し、めまいや失神が起こります。足を高くして寝かせることが応急手当です。
熱けいれん 熱けいれんは、大量の汗をかいたときに水のみや電解質の少ない飲料を補給した場合、血液中の電解質(ナトリウムなど)の濃度が低下することがあります。電解質は筋肉を正常に収縮するために不可欠な物質であり、これらが不足して痛みをともなう筋けいれんが起こります。経口補水液を補給することが応急手当です。
熱疲労 熱疲労は、大量の汗をかいたにも関わらず水分補給が不十分だった場合に発生します。脳やその他の臓器に送られる血液の量が不足することで、脱力感、倦怠感、めまい、頭痛、吐き気などの症状が出現します。経口補水液の補給およびアイスタオルなどでの体の冷却が応急手当です。
熱射病 熱射病は過剰な高体温で、体温調節を行う中枢神経系に異常を来した状態です。反応が鈍い、言動がおかしい、昏睡状態など多様な症状を示します。生命に関わる重篤な状態ですので、119番通報をしたら、救急車を待っている間は全身を氷水につけるなど積極的な冷却が必要です。

熱射病の応急手当

労作性熱射病では、反応が鈍い、言動がおかしい、昏睡状態などの症状と水分補給ができない、直腸温度(深部体温)が40.5℃以上などの徴候があるとされています(※2)。熱射病が疑われる場合には、すぐに119番通報を行い、救急車を待っている間には全身を氷水のアイスバスにつける(氷水浸漬)などの積極的な冷却を行います(※1)。
このような積極的な冷却を行う理由は、ロードレースで発生した熱射病患者に氷水浸漬を行ったことで死亡事例が0件であったという報告が根拠になっています(※3)。氷水のアイスバスを用意できない場合には、防水シートに氷水を入れて冷却する方法、アイスタオルで全身を覆い順番にタオルを交換する方法、全身に冷水を浴びせて扇風機の風を送って冷却する方法などでも代用できます。これらの冷却方法の共通点は全身を水で濡らすことです。

  1. ※1日本スポーツ協会. スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック. 第5版. 2023.
  2. ※2広瀬統一, 泉重樹, 上松大輔, 笠原政志編. アスレティックトレーニング学: アスリート支援に必要なクリニカル・エビデンス. 文光堂. 2019; 40-75.
  3. ※3Stearns RL et al. J Athl Train. 2024; 59(3): 304-309.

ページ
上部へ

ページトップへ戻る